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事業承継、その方法としてのM&A

現在、日本の中小企業の経営者が高齢化してきています。事業承継のニーズは、高齢となった経営者より寄せられることがあります。他方で、後継者不足による倒産については、近年増加傾向にあります。事業承継には、いくつかの方法がありますが、近年では親族外承継としてM&Aが注目されてきています。ここでは事業承継とその方法としてのM&Aについてご説明します。なお、M&Aにおいて、大企業の場合と中小企業の場合は大きく異なることから、ここでは、主として中小企業を前提に記載いたします。

事業承継、その方法としてのM&A

事業承継の種別とは

まず、事業承継とは、そのままの意味で企業を承継させて継続させることを言います。では、その事業承継の種別とはどういったものがあるのでしょうか。 事業承継の種別は大きく3つに区分することができます。 i) 親族内承継(家族・親族に承継させる) ii) 役員・従業員承継(役員による株式の取得や、従業員による株式の取得) iii) M&Aによって社外の第三者による承継 2015年に中小企業庁がみずほ総合研究所(株)に委託した調査である、「中小企業資金調達に関する調査」によると、事業承継後、直近5年以内の企業の65%以上が親族外承継を行っているといった結果があります。他方で、事業承継から35年以上40年未満の企業では、90%以上が親族内承継であるといった調査結果も出ています。 このように、近年では親族外承継が大勢を占めるようになっており、事業承継の1つの選択肢としてM&Aが注目されています。

事業承継におけるM&Aの魅力とは

事業承継にて親族承継を行う場合は、従来から在職している従業員との関係が難しいといった場合や、あるいは、元々の役員が承継する場合にチャレンジ精神に欠けるといった場合とはことなる可能性をM&Aでは、検討できる点が魅力的です。 また、買い手側のニーズとしても、既存事業の規模拡大や、買い手企業の事業内容の周辺領域の外堀を埋めることができたり、事業の中核となる人材を確保できるなどのメリットがあります。 とくに買い手側の企業としては、新卒採用に膨大な費用と時間を使い、教育にエネルギーを使うのであれば、その分野についての熟練の従業員を仕事付き(事業付き)で買収する方が時間と費用の面から十分に利益があるといったこともあります。

M&Aと経営者の心寂しさ

前項では、事業承継におけるM&Aの魅力について記載いたしましたが、逆にデメリットについてはどういったものがあるのでしょうか。 この点については、一言でいえば、『愛着があり、さまざまな思い出の詰まった「会社」を他人へと預けるもの悲しさ』ではないでしょうか。 しかし、親族内などの身内から事業承継に適切な人材を選択しようとする際、仮に親族ですでに起業している者や、他の会社で働く者などにあっては、その会社を辞めるといった選択を迫る場合があり、心理的な負担があります。 他方でM&Aであれば、こうした配慮は不要であり、また、アドバイザーを含めて前向きに事業を存続させながら承継させる道を選択することができるといったことがあります。

M&Aを含めたタックスプランニング

どのような事業承継を選択したとしても、必ず金銭的価値のあるものの、移動が生じることから、「税金」についても念頭におく必要があります。 このように、税金に関する計画を立てることを「タックスプランニング」と呼びますが、事業承継においても、承継前と承継後に納税する義務の発生する税金がどのようなものであり、どれくらい必要であるのかについて、計画をたてる必要があります。 また、事業承継は、大きな文脈で考えると、「相続」とも関連するため、ご自身の相続後についても思いをはせながら、相続税なども考えの範疇におき、検討する必要があります。 したがいまして、事業承継は非常に長いスパンで考える必要があることから、早期に弁護士などの専門家に相談しておくと良いでしょう。

M&Aの3つのステップ

事業承継におけるM&Aのシナリオとしては、3つのステップがあります。 1) 第一ステップ 買い手探しと事前交渉 ※アドバイザー、弁護士の介入 2) 第二ステップ 本交渉 3) 第三ステップ M&A完了後のケア 第一ステップに関して説明を加えると、事業承継M&Aについて、経営者の人的ネットワークから直接買い手を探すといった方法もありますが、近年はM&Aアドバイザーを入れて、事業承継先企業を探してもらうといった方法が主流となりつつあります。 人的ネットワークを利用する場合に比べて、アドバイザーと契約して探してもらう場合には、良い意味でしがらみがなく、フラットな立場で交渉に臨めるといったメリットがあります。 また、第二ステップの本交渉の前提として、いずれにしても、承継する自社の企業価値を評価してもらう必要がありますが、当初より、弁護士などの専門家を含めたアドバイザーの介入があれば、この点についてもスムーズに進み、その後の本交渉まで行うことができます。 第三ステップに関しては、M&Aは事業承継の手続きが終了したらそれで終わりというわけではなく、新しいオーナーに引き継いでからは、一定期間は顧問などの役職につき、残された従業員や取引先について、きちんと引き継いでから、徐々に退くといた形式が一般的です。

M&Aにおけるデューデリジェンスと弁護士の役割

前項でも説明したとおり、事業承継においては企業価値の把握が重要です。そこで、買い手候補者側からデューデリジェンス(投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること)が行われるのですが、売り手側としても自社の売却価値としてどの程度あるのかといったことを把握しておくことは有益です。 また、少しでも良い条件で交渉を円滑にすすめるためにも、資産のうち処分すべきものであったり、債権債務関係の処理などを、法的専門家として弁護士に相談しておくといったことが考えられます。 弁護士は、必ずしも税務の専門家ではありませんが(ただし、登録を行えば税理士となります)、他方で法律の総合的な専門家であり、税理士、公認会計士などを、アドバイザーとともに総合的に統括する役割が期待できます。

一般的なM&Aの手法とは?合併、株式交換、株式譲渡?

これも、タックスプランニングに関連する話題ですが、中小企業のM&Aの手法のポイントは、「二重課税を回避」すること及び「手続きの簡素さ」にあります。 この視点で考えた場合、一般的にもっとも有効だと言える手法が、「株式譲渡」です。この場合、売り手の会社にとっては、株主が経営者から、事業承継先の第三者への変わるのみで、雇用関係、取引先・金融機関との関係は現状のまま維持されます。 他方で、合併(及び事業の全部譲渡)、株式の交換(子会社化)などは、基本的には、会社にその対価が支払われることから、経営者の手元にその利益がわたる段階で、2度の課税ポイントがあります(したがって2重課税となります)。 前述の株式移転であれば、経営者は事業譲渡対価の20%の譲渡所得税を支払うことで、原則的にはM&Aにおける納税は完了します。また、もとの従業員も雇用関係が変わらないことから、雇用保険や社会保険、厚生年金などの各種手続きや、労基署への届け出などのM&Aにからむ副次的な手続きを回避することができます。

株式譲渡のデメリットとは?

株式譲渡のデメリットは、売り手側にはあまりありません。一方で買い手側の企業としては、簿外債務や現経営者が認識していない偶発債務(未払い残業代などの先取特権等)ある場合があるといったデメリットがあります。 また、経営者が認識していない偶発債務の場合、内容によっては、一般的に結ばれる契約条項の「表明補償(売り手が買い手に対し、最終契約の締結日や譲渡日等において、対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するもの)」ではそのリスクを負担しきれない場合が想定されます。 経営者が認識していない以上、表明補償に関する債務不履行責任を問うことが難しいと考えられるためです。 したがいまして、事業承継を検討する早期段階から、弁護士などの適切な介入により、こうした簿外債務等をあらかじめ整理しておくといったことが可能となります。

まとめ

一般的に事業承継は長期間にわたる事前の準備が必要といわれており、M&Aもその形式の一つとして注目されています。検討の段階から、弁護士などに相談することが、円滑な承継対策となりえます。事業承継をお考えの場合には、弁護士にご相談ください。